チェリッシュ1話 ~あなたはきっと幸せになれる~

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③チェリッシュ ~あなたは幸せになれる~


【はじめに】

主人公である「チェリッシュ」は、 スペイン人の父、フィリピン人の母の間に生まれた女の子。幼少期は母の母国であるフィリピンで育ち、7歳の時に母と一緒に日本で生活。チェリッシュが過酷な運命に翻弄されながらも、必死に生き、小さな夢と希望を追い求めるその波乱に満ちた半生を描いた短編小説。

【序章】

「もうたくさん。こんな家出て行ってやる。」チェリッシュは家を出ました。実はもうかなり以前から家を出る決心はしていました。そしてとうとう実行の時が来たのです。といっても準備が万全というわけではありません。お財布には今ある自分の全財産と言っても千円札が数枚、少し大きめのリュックに必要な服など詰め込んただけの家出でした。チェリッシュ 20 歳の春のことです。

 チェリッシュは継父の仕打ちに我慢ができず、 家を出ることを決意しました。 母が亡くなる前まではとてもやさしい継父でしたが、母が亡くなったころから、チェリッシュに対する態度が一変します。家事全般をチェリッシュに押し付けるようになり、高校の学費も自分で稼ぐよう言われました。

 そんな環境でもチェリッシュは定時制の高校に通いながら勉強し、家事、学費のためのアルバイトにと本当にがんばりました。しかし、継父の仕打ちは一向に良くならず、血のつながらない弟2人ばかりを可愛がります。チェリッシュはとうとう自分自身の力だけで生きていくこと!それを固く決意したのでした。

【1章 】母イザベルの人生の選択①

 時間は遡って、チェリッシュがまだ生まれる前。チェリッシュの両親である父「ロランド」と母「イザベル」は、普通の人では一生涯ないであろう劇的な出会いにより結ばれました。 父のロランドはスペイン人。実家は代々貴族の家柄で大変な資産家でした。 ロランドはフィリピンで事業を展開しており、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの若き実業家でした。

 母のイザベルは、フィリピン人の両親のもとに生まれました。生活は楽とはとても言えず、日本人から見れば間違いなく貧乏と言われてもおかしくはないそんな家庭環境でした。1日1回しか食事がとれないそんな日もあるほどでしたが、貧民街では毎日食事がとれることだけでも幸せな方です。今の日本人には到底理解のできない世界なのでしょう。

 そんな過酷な環境で育ったイザベルですが、小さな時からとても頭が良く、勉強することが大好きでした。そしてイザベルの両親も、この環境から抜け出すのはイザベルへの教育が重要であることを承知していました。ですからイザベルの両親は、自分達の知っていることはすべて教え、自分達の食事代を惜しんででもイザベルに新しい本を買い与えたのでした。

 そんなイザベルが今ではフィリピンで名門中の名門といわれる国立フィリピン大学ディリマンに通う女子大生となっています。イザベルはここ国立フィリピン大学ディリマンで医療を学び、将来は医師なることを目指して猛勉強中でした。そしてある日イザベルの運命を大きく変えてしまう男性ロランドと巡り会います。

 大学2年生になったイザベルは、 あるパーティでロランドと出会います。 ロランドは、ラテン系の堀の深いはっきりした顔立ちで、とても漂々しい男性です。一方のイザベルは、 ウェーブのかかった茶色いロングヘアが自慢で、茶色い瞳が魅力的なとても美しい女性でした。

 二人は出会った瞬間から惹かれ、お互いを想うのに時間はかかりませんでした。強引なロランドはイザベルを積極的に誘い、勉学に忙しいイザベルもついロランドの誘いに応じました。そして二人で会う時間がとても貴重であり至福な時となっていったのです。

 出会ってから約1か月。ロランドは突然イザベルに求婚します。もうロランドはイザベルに対する気持ちが抑えられなかったのです。イザベルは純粋に嬉しい気持ちでいっぱいでしたが、その反面とても驚き、 まだ若い自分には結婚を考えることは難しいことを十分に理解していたのです。

しかもイザベルは医師を目指している学生の身分です。また医師になることは小さいころからの夢であり、両親の希望でもあるのですから。イザベルは、心の底から嬉しいものの、ロランドに静かに自分の気持ちを伝えました。

 「ロランド、とても嬉しいわ。もちろん直ぐにでもOKしたいの。NOなんて絶対にありえない!これは本当よ。だけど私は学生。今すぐにはOKの返事が出来ない。お互いに少し冷静になりましょう。あなたのこと世界で一番愛しているわ」イザベルは、ロランドへの愛は変わらないことを約束し、その場はロランドも一旦引き下がりました。

 それから数日、ロランドからの劇的なプロポーズの余韻もまだ冷めない頃、イザベルは自分自身に異変が起きていることに気が付きました。そうです。ロランドの子を身ごもっていることに気づいたのです。それからイザベルはとても長い時間苦悩にさいなまれることになります。

 イザベルは子供を身ごもっていることをロランドに伝えるべきか。そしてこの子のことをどうするのか・・・・。どうするのかというのは中絶のことです。イザベルはまだ学生であるため、子供を育てながら医師を目指すことは困難というより、もはや不可能だと。

 ですが自分の子供を中絶することは、イザベルだけでなく女性であれば誰でもそう簡単に決心できるものではありません。それにイザベルはカトリック教徒です。中絶は宗教上固く禁じられています。そして何より愛するロランドとの子供です。イザベルはどの理由を取っても、自分の医師になる夢を優先させる理由が見つかりませんでした。


 イザベルは悩んだ末、母親に子供ができたことを打ち明けます。正直なところ母親にどうすればいいか決めてもらいたい気持ちでいっぱいでした。すると母親からは自分が期待したアドバイスとは全く逆の言葉が返ってきました。「とても悩んでいるのねイザベル。でもねこれはあなたが決めることよ。」さらに母親は続けて言います。

 「あなた自身の幸せは医師になること?それとも母になること?大切なことよ。よく考えて。」イザベルは敬虔なクリスチャンである母からこんな言葉が出るとは思いませんでした。当然生みなさいと必ず言われると思っていたからです。母の言葉を受けて、イザベルは一つの結論を出したのです。

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